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巷で囁かれる噂、10円玉でiPhoneは冷えるのか。
- 秋葉原店 2021-06-15 2021-07-09 秋葉原店店長 須山よしのり
熱くなるiPhoneに10円玉
皆さんはiPhoneを使用していて「熱いな」と感じること、ありますか?
殆どの場合は重い処理が必要な「ゲーム」や、連続して「動画」を見る。
中には動画撮影や編集等のクリエイティブな使い方で感じる方もいるかと。
もちろん上記に限った事ではなく、仕事でGPSを多様する、夏場の外回り、様々なシチュエーションで使用されているiPhoneですから一度は熱いと感じたことがあるでしょう。
そんなとき、ネットで調べてみると…
「10円玉を特定箇所に乗せると冷える」
こんな記事やブログ、SNSでの情報がヒットします。
確かに10円玉に使われている銅は、熱伝導率が高い素材です。
工業機械のヒートパイプにも使われていますし、効率的に熱を逃がすための導線として日常的に目にする素材です。
しかし、そんなに上手い話があるのでしょうか。
そもそもiPhoneはどうやって熱を逃がしている?
おそらく、この世の中に電子計算機、パソコンが登場してからというもの…
処理性能と熱の関係は変わっておらず、常に悩みの種でしょう。
一般的にiPhoneを含むスマートフォン全般も例にもれず、モバイル機器というカテゴリが別のものではありますが基本構造はパソコンと同じでデータの処理を行う際には発熱します。
そして、発熱の傾向は
処理性能が高い=高熱になりやすい
めちゃくちゃ簡単にいえば、こうなります。
人間も運動をすれば体温が高くなりますし、運動能力が高い人ほど、その傾向は強くなりますよね。
そんな感じです。
しかしiPhoneのように薄く小さい端末にはパソコンのように
冷却ファン
ヒートシンク
などの効率的な冷却機構を発熱部位に設置する場所はありません。
内部にはバッテリーや電子基板、カメラやスピーカー、アンテナとギッシリ詰まっていますし…
iPhone7以降では耐水構造を持たせたが故に密閉度が高くなり熱の逃げ場がありません。
では、どうやって処理中に発生した熱を逃がしているのか?
気になりますよね。
答えはiPhoneの金属フレーム
iPhoneは殆どのモデルで金属製フレームを採用しています。
(一部、樹脂フレームのものもありますが少数です)
モデルにより金属の素材は異なりますが、大半は
ステンレス
アルミ合金
この2つで、背面がガラス製のモデルもメインフレームはステンレスかアルミです。
そしてこの金属製のフレームがiPhoneの熱対策の一つになっています。
パソコンでもそうですが、殆どの場合において熱を逃がす際には熱伝導を利用します。
熱が伝わりやすい素材に熱を負担させ効率よく外へ排熱する方式ですね。
iPhoneのフレームの中でもアルミ合金製のものは、この熱伝導を利用し
iPhone全体をいわゆるヒートシンクとして機能させています
しかし、それでも熱く感じるのはなぜでしょうか?
排熱に必要なのは、面積
排熱に必要な要素の一つに面積があります。
また簡単な説明になってしまうのですが…
内部の熱を効率よく逃がすには外部に触れる面積を増やす必要があります。
例えばが熱源が1センチ角の正方形であれば、それよりも広い面積の熱伝導素材を設置し
空気に触れる面積を増やして外部に放熱してやれば効率よく冷えるわけです。
そこでiPhoneはフレーム全体に熱を誘導し、放熱範囲を広く保っている。
ということは、ですよ。
本体が熱くなるのは必然
ってことにもなります。
ちゃんと熱を逃がそうとしているわけですからね。
しかし、冷却用のファンが無いiPhoneの自然な冷却には限界があります。
ファンレスで適温を保つには、環境の温度も重要になりますし…
何よりも、放熱性能を超える発熱がある場合はどうしようもありません。
そこで話題になったのが10円玉
で、ここからが本題です。
iPhoneのフレームで放熱可能な限界温度
この放熱限界を突破するために、話題になったのが…
フレームの熱伝導率を上げる方法として、銅の10円玉を置く
だったわけです。
つまりヒートシンクにヒートシンクを増設するような形ですね。
これ、実はそんなに突拍子もない話ではありません。むしろ理論上は成り立つ方法です。
先にiPhoneのフレームに使われる金属について紹介しましたが…
ステンレスやアルミ合金よりも銅のほうが熱伝導率が高いので、効率は上がる。
…ハズ
あくまで理論上ですからね。
机上の空論で終わるかもしれませんし、実証したところで体感に頼るとプラセボ効果ってこともありえます。
しかし10円玉を置くことで排熱に必要な要素
面積
熱伝導
この2つが強化されるのも事実。
機械の修理屋が噂にまごまごするのは癪に障ります。
百聞は一見に如かず。
検証してみましょう。
検証開始の前に、検証方法を考える
正しく放熱性能を計るには、どんな方法がいいか色々と考えました。
今まで見てきた検証方法は、サーモカメラ等を使った視覚的なものが多かったので…
今回は温度を直接計る方法にしようと思います。
使用する機材は
iPhone7
マルチテスター(温度測定機能付き)
一般的な10円玉
修理用加熱プレート
以上となります。
測定方式は以下の通り
1.測定端子をiPhoneの本体に中心に設置
2.修理用加熱プレートで50℃まで本体を温めます
3.加熱終了後、机に画面を下にして置きます
4.その状態で常温(30℃)に戻るまでの時間を計る
5.これを10円玉の有無で交互に行う
この方法なら、環境や熱源の変化に左右されず測定できるはずです。
それでは、始めましょう。
まずは10円玉無しで
50℃まで加熱し、測定スタート。
10円玉無しの実力を見ていきます。
そして5分後…
一気に36℃前後まで下がりました。
殆ど人肌くらいの熱ですね。
そして…
30℃まで低下。
タイム 14:58.84
素の状態でも人肌に近付くのに5分とかからないのは、凄いのでは…?
10円玉でiPhoneは冷やせるのか…!
10円玉を乗せる箇所は噂にならって
ロジックボードの裏側の位置、大体アウトカメラの少し下辺りにしています。
もちろん、10円玉はiPhone7を加熱したあとで設置。
あとのせサクサクですね。
しょーもないことを言いながら5分後…
うーん…?
10円玉なしよりも、冷める速度が遅いような。
いやいや1℃くらいは誤差の範囲です。
ですよね…?
タイム 17:14.63
…私の測定方法がおかしいのでしょうか。
タイムが伸びました。
おかしいですね。
…ああ、わかりました。
10円玉の枚数が足りないんだ。
10円玉、2枚に増量
そうですよね、10円玉1枚で何ができるって話ですよ。
今日日、駄菓子屋でも10円で買えるお菓子は限られます。
倍ですからね、単純に、そりゃあもう。
5分後…
…まあ、悪くない感じです。
この実験を開始してからすでに1時間以上経過していますが…
結果が出ないからといって焦っているわけではありません。
結果良ければ全て良し、そう思いませんか…?
タイム 14:23.91
10円玉増量の効果からかおよそ30秒タイムが縮みました。
なるほど、10円玉の量も大事なようで…
というよりも、やはり面積も重要ですね。
今回の10円玉2枚での計測に関しては熱測定部位の近くに10円玉があるので
その分、秒数が減った可能性も高い…むしろ、それが一番の要因な気もします。
つまり、ですね。
冷えるまでの秒数でいうと大差はない…?
今回の測定方法では、驚くほど大きな効果は観測出来ませんでした。
ただし、今回の測定では
全体を温めているため、本体そのものが熱源になっています。
本来、熱を持つ場合はロジックボードの処理チップ周辺を中心にして暖かくなるので
今回のように広く全体を温めた場合は10円玉程度の伝導率、面積増加での冷却効果は比較的薄いものとも考えられます。
最終的な結論として
状況により効果は変わる
…ということになります。
つまり万能ではない。
逆に言えば、状況により効果的な事も否定出来ません。
否定したくないです。
なので…
次は本気で、冷やします。
次回「10円玉よりも早くiPhoneを効率よく冷やす方法。」